その日の夕食時、らっきょはその疑問を母に打ち明けた。
「お母さーん! この聖衣なんでラクダなのー?」
「お母さんはそんな事知らないわよ。大体コスプレなんてそろそろ卒業しなさい」
相変わらず母は聖衣を何かのキャラのコスプレだと思っているようだ。
母に聞いたのが間違いだったと思い、らっきょはご飯を食べるのを再開した。
数日経ったある日、らっきょはいつものように新聞の折込チラシでバイトを探していた。
すると数枚目のある小さな募集チラシに目が止まった。
『アルバイト募集中! 聖衣の修復補佐をするお仕事です♪ 未経験者歓迎! 自給応相談。担当ジャミールのムウまで』
「・・・聖衣修復?! コレだぁ!!」
らっきょはパンドラボックスを担ぐと直ぐに部屋を出た。
「遅くなるなら連絡しなさいよー!」
家を出るとき台所から母の声が聞こえた。
「うっせぇ! するかババァ!」
らっきょはちょっとした内弁慶ぶりを見せて家を飛び出した。
ジャミールに到着したらっきょは黙々と歩いていた。
「そろそろつくころだ。きっとこのムウってヤツに会えばなんとかなるだろ・・・」
しかし、そんならっきょをあざ笑うかのように深い霧が辺りを包んだ。
「立ち去れ小僧! ココはお前のようなものが来る場所ではない」
どこからか声が聞こえたと思ったとたんに周囲の骸が次々と立ち上がる。
らっきょは思わず、「ひっ?!」と情けない声をあげてしまった。
「だ、だからなんだよ!」
らっきょは無駄に虚勢を張ると、チラシに書いてあったとおり真っ直ぐ駆け出した。
数十メートルほど走ると誰かにぶつかってらっきょは吹き飛んだ。
目をやると自分と同じようにパンドラボックスを担いだ男が転んでいる。
「誰じゃコラ!? オレをらっきょさんと知ってケンカ売っとんのかワレ!」
「は? らっきょ? 知らんな。誰だ?」
男は額に手をやって頭を軽く振りながら立ち上がった。
「麒麟座のらっきょと言えば地元じゃちったぁ名が知れとんじゃ!! 分かったか!」
らっきょはこんなところで舐められちゃいけないと思い声を張り上げた。
「・・・なんだかよく分からないが俺はシュウ、コップ座クラテルのシュウだ」
「え? コップ座? ・・・じゃあ、あんたも聖闘士か?」
その時らっきょはシュウが同じバイト募集のチラシを持っていることに気付いた。
「あ、ひょっとしてあんたもムウとやらに用があるのか?」
「そうだ。というよりもこんなところにほかの用事で来ると思うか?」
もっともだ、と思いらっきょは思わず感心してしまった。
なに感心してんだ、と自分にツッコミを入れていると立ち込めていた霧が晴れてきた。
振り返ると今らっきょが走り抜けて来た道は両側が切り立った崖だった。
「うあ! ・・・ちょっと交通の便が悪いな〜。危ないよ」
らっきょは正直ビビッたが、シュウの前では決して怯えた様を見せぬように耐えた。
弱みを見せたらナメられる。震えを悟られるわけにはいかない。
二人はなんやかんやで連れ立って先へ進んだ。
しばらくすると何やら塔のような建物の前で誰かが作業をしているのが見えた。
「どうやらあそこに居るのがムウみたいだな・・・」
シュウが指差してわかりきったことを言う。どこか偉そうだ。
「たのも〜〜〜〜♪ あのーあんたがムウさん?」
らっきょの声にムウと思われる男が作業する手を止め振り向いた。
「お! もしかしてバイト希望の方ですか? 二人も来てくれるなんて助かるなぁ」
「いや、あのオレはバイトじゃなくて聖衣の形を変えてもらいに来たんだ」
「私もです。このチラシを見てもしかしたらと思ってやって参りました」
ふたりがそう言うとムウは見るからに不機嫌そうになった。
しかし二人の必死の願いにため息をつきながらも話を聞いてくれることになった。
「・・・話はわかりました。ただ、ホントにいいんですね? 後になってやっぱり元の形に戻してくれって言っても嫌ですよ。ちなみに代金は一体100万かかりますがよろしいですか?」
お金のことをまったく考えていなかったらっきょとシュウは顔を見合わせた。
「あの・・・ローンは効きますか?」
数時間後。らっきょとシュウの新生聖衣は完成した。
出来は大満足だった。ジャミールに来て良かったとらっきょは心から思った。 シュウも新生聖衣の出来が気に入っているようだった。
「ありがとう! ムウさん」
二人は声を揃えて礼を言った。
「まぁ仕事ですから。あとお代はしっかり払ってくださいね」
こいつは金の亡者か、と心の中で悪態をつきながら二人は喜び勇んで帰っていった。
「しかし・・・本当にあんな聖衣でよかったのだろうか? まぁ本人が喜んでるならいっか」
ついでにバイトに誘ってみるのを忘れたな、と思いつつもいい仕事が出来たことにムウは満足して再び仕事に取り掛かった。
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