― 犬と女と紅茶の香り ―

「やはり紅茶は紳士の嗜みです」
小犬座のポポルスキーミラジョボビッチは午後のティータイムを満喫していた。

「ふーん……そういうものなんだ」
正面に座っている飛魚座のライヤは首をかしげながら紅茶に口をつけた。
ポチとライヤのふたりはなぜか城戸邸に滞在していた。

「まったく……聖闘士にはこの素晴らしさを理解できる方が少ない」
ポチはその様子に不満げにため息を漏らした。
「私は紳士じゃないからいいの」
「しかし、私の母や兄弟姉妹たちもこの良さを理解してくれましたよ」
「えっ!? ほんとに?」
ライヤは思わず紅茶を吹き出してしまうかと思うくらいに驚いた。
「えぇ。故郷に帰った時などは皆でティータイムを楽しみます」
「楽しむって……。だってポチ君の家族って、犬……でしょ?」
「犬ですね」
わかりきったことを聞く人だな、とポチはあきれた顔になった。
「……だよね。みんなでティータイム……」

妄想

「……なんかかわいいなぁ」
ライヤはその光景を想像して思わず笑みがこぼれてしまった。
「なにがですか?」
はっとして前を見るとポチが怪訝そうな顔でライヤを見ていた。
「あっ……な、なんでもないよ」
「そうですか。あ、それから私はポチではなくポポルスキーミラジョボビッチです」
「そんな長い名前いちいち呼べないよ。ポチ君でいいでしょ。はい、お手」
そう言ってライヤが右手を差し出すと、ポチは思わず反射的に手を乗せてしまった。
「……って、何をさせるんですか。やめてください」
「そんなこと言ってまんざらでもないでしょ?」
「いいえ」
きっぱりと否定するポチにライヤは優しい口調で囁いた。

「おかわり」

――― 完 ―――

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