― 策士、策に溺れかける ―
「ぬぅ……どう考えても金が足りん」 アメリカで始めた会社が決算を前に不渡りを出しそうになっていたので、鶴座の殿下は金策に奔走していた。 「面倒だが聖域の仕事を請け負うしかないか……」 そんな彼の前方に地元大リーグチームのユニフォームに身を包んだ陽気なふたり組が歩いているのが目にとまった。 「あれはデルタとチャーリーか?」 デルタとチャーリーは野球好きで知られる三角座と南三角座の聖闘士だった。 ふたりに気付いた瞬間、殿下の頭の中である考えがひらめいた。 「ふたりともご機嫌そうだな」 殿下が声をかけると、ふたりは両手を広げて嬉しそう顔をした。 「殿下さんじゃないですか! 久しぶりです」 「いやぁ、こんなところで会うなんて奇遇ですね」 「ちょっと時間あるか? いい話があるんだかな」 「そういうことならその辺で何か食べませんか」 そんなこんなで3人は一緒にレストランにやってきた。 「え!? 白銀聖闘士にですか!?」 殿下の告げた一言にデルタとチャーリーは大きく反応した。 「しっ! 大きい声出すんじゃねぇよ」 「あ、すいません……。でも本当ですか?」 「あぁ。日本の噂聞いたか?」 ふたりは少し考えるようにしてから答えた。 「なんでも日本に白銀聖闘士が何人か派遣されたとか」 「うむ。だがその白銀が日本にいた青銅に返り討ちにあったらしい」 「ほんとですか!?」 「あぁ。つまり白銀に空きができたってことだ」 「そ、そうですね」 デルタののどがごくり、と大きな音を出した。 「察しが悪いな。つまりだ。これは白銀になれるチャンスなんだ」 「チャンス?」 「あぁ。俺は教皇に顔が利く。お前達を紹介すれば白銀に格上げ、ということも……」 「ほ、ほんとですか?」 「俺がお前達に嘘をついたことがあったか?」 「い、いえ。でも我々が白銀聖闘士なんて……」 「お前達はそれくらいの力を持ってるんだ」 殿下がそう言うとふたりはうなだれていた頭を勢いよく上げた。 「お、お願いします」 「もちろんだ。だが……少しばかり金が要るんだ」 「い、いくらくらいですか?」 「まぁこれくらいだな」 殿下の言った金額の高さにデルタとチャーリーのふたりは少し驚いた。 だが白銀聖闘士になれることを思えば安いものだ、と判断したふたりは、翌日指定通りの金を殿下に託したのであった。 後日。 デルタとチャーリーからせしめた金で殿下の会社はなんとか危機を脱した。 安心して日本に帰国しすると、家の前にふたりの男が立っていた。 ![]() 「うっ……あの2人がなぜ日本に!?」 ふたりにばれないように後ずさりを始めた殿下であったが、時既に遅し。 「あっ、殿下さん!!」 「どこへ行くんですか!!」 あっさりと見つかり、殿下はふたりに捕まってしまった。 「殿下さん。例の話どうなりました?」 デルタがかなり怒っている口調で殿下を問い詰めた。その横ではチャーリーが今にも殴りかかって来そうな顔をして睨んでいる。 「そ、それがな……あれだ……」 「どれですか?」 「そ、そうだ。聖域の話はおまえ達も知ってるだろう?」 この瞬間、殿下の中でこの危機を乗り越えるストーリーが組み立てられた。 「日本で白銀を倒した青銅が聖域に向かったというやつですか?」 「そうだ。知っているなら話は早い」 「あれがなんだというんです」 「実はその青銅たちが教皇を殺してしまったんだ」 「えぇぇぇ!?」 デルタとチャーリーは同時に目を見開いて声を上げていた。 「すまん」 「ほんとなんですか?」 もはやふたりの顔からは殿下への憎しみは消えていた。 「そういうわけでおまえ達に会わす顔がなくてな。すまなかった」 「か、顔を上げてください!殿下さんが悪いわけではないですよ」 「そうですよ。憎きはその青銅聖闘士たち……」 「そ、そうか。そうだな……はっはっはっは……」 |
――― 完 ―――
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